ASJ Freshニュース第129号(2025年5月29日号)

ASJ Freshニュース

◆ フォーラムメンバーの趣味「3Dプリンター」

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日本音響学会 学生・若手フォーラム
ASJ Freshニュース 第129号
2025年5月29日 発行
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はじめに

みなさんこんにちは!今月号のASJ Freshニュースは、久しぶりの「フォーラムメンバーの趣味」として3Dプリンターについてご紹介します。 

3Dプリンター

3Dプリンターとは、立体的な造形物を印刷できるプリンターのことです。産業用途での実用が進んでいますが、趣味としての家庭用3Dプリンターも多数発売されています。最近では安価に手に入る一方で印刷速度が劇的に向上しており、趣味としてのハードルは数年前と比べてかなり下がっています。 

3Dプリンターの印刷方式 (https://www.3d-printer.jp/knowledge/classification/)

3Dプリンターの方式にはさまざまなものがありますが、家庭用として普及しているのは以下の2つの方式です。 

熱溶解積層方式 (fused deposition modeling; FDM) 

樹脂を熱で溶かしてノズルから押し出す方法で、材料押出法とも呼ばれます。押し出された樹脂は細い線となり、すぐに固まります。この線で描いた層を積み重ねることで立体を造形します。 

(家庭用としての)利点 

  • 扱いやすい 
  • 大きなものが作りやすい 

(家庭用としての)欠点 

  • 印刷速度が遅い 
  • 動作音が大きい 
  • 印刷物のきめ細かさに欠ける 
  • デザインの自由度が低い 

光造形方式 (stereolithography; SLA) 

特定の波長の光を照射すると硬化する樹脂を利用する方法で、最も古い方式の一つです。 

(家庭用としての)利点 

  • 印刷速度が速い 
  • 動作音が比較的小さい 
  • きめ細かな印刷が可能 
  • デザインの自由度が高い 

(家庭用としての)欠点 

  • 印刷後に印刷物の洗浄や(場合によっては)二次硬化が必要である 
  • 樹脂は一般にレジンが使われるが、取扱に注意が必要である。 
  • 印刷中に換気が必要である 
  • (法令の関係で)廃液を簡単には処分できない 

筆者は家庭用の熱溶解積層方式 (FDA) プリンターのうち、AnkerMake M5C (Anker)という機種を使用しています。樹脂は最も一般的なポリ乳酸 (polyactic acid; PLA) です。 

何を印刷してきたか 

読者の方々のほとんどは3Dプリンターを使ったことがなく、個人が家で一体何を印刷するのか疑問に思われると思います。以下に筆者が印刷してきたものを写真で紹介します。 

47都道府県の立体地図(印刷時間: 2週間〜1か月) 


 
 

国土地理院のウェブサイトで配布されている、都道府県の立体地図を印刷したものです。縮尺はおよそ108万分の1で、高さ方向は3倍強調されています。並べると結構な場所を取ります(写真の机の長辺方向の長さは180cmです)。 

個人的なお勧めの楽しみ方は、日本海側から北陸地方を眺めて、冬の北風の気持ちになることです。南に行こうとするのですが、立山や白山をはじめとして、険しい山が行く手を阻んできます。日本海側に雪が多い理由がよく分かります。 

 

印刷には非常に長い時間がかかります。標準的な0.4mmノズルで積層厚を0.16mmとした場合、AnkerMake M5Cでは印刷に2週間かかりました(昼夜を問わず稼働させた場合)。後により高精細にすべく0.2mmノズルで積層厚を0.05mmとしたものを作りましたが、この場合は1か月以上かかりました(同じく昼夜を問わず稼働)。夜中じゅう隣で3Dプリンターが動いているのもうるさいし、朝起きて失敗していたらがっかりするしで、なかなか大変な日々でした。 

アインシュタイン・タイル(印刷時間: 1枚あたり数分) 

有名なアルバート・アインシュタインのことではなく、アインシュタイン問題2022年から2023年にかけて完全に解決されたことを記念して印刷してみたものです。アインシュタイン問題とは、2次元空間を埋め尽くすことのできる単一の非周期タイル繰り返しパターンがない)があるか否かという問題です。このような図形は長らく発見されていませんでしたが、20233月にDavid Smithらが鏡像を許すという条件のもとで発見し、5月には条件を完全に満たす図形を発見したと発表しました。図形にはそれぞれ”hat””spectre”という愛称がつけられており、写真はprintables.comで有志により公開されていたhatのモデルを印刷した様子です。 

3Dプリンターの世界には、printables.comなど、ソフトウェアでいうところのGitHubのようなウェブサイトがいくつか存在して、そこから簡単にモデルを手に入れることができます。 

 

4色で印刷すれば、四色定理を意識しつつ、アインシュタイン・タイルで平面を充填することができます(なかなか難しい)。筆者は家を建てることがあれば、玄関のタイルはアインシュタイン・タイルにしようと決めています。 

オカリナ(印刷時間: 数時間) 

一つぐらい実用的で、しかも音に関係あるものを紹介します。同じくprintables.comから手に入れたオカリナです。ちゃんと音が出て、筆者はこれで練習してオカリナが吹けるようになりました。オカリナは印刷できる時代なのです。 

 

ファスナー(印刷時間: 1つあたり30分程度) 

最後は実用性のないものに戻ってprintables.comから手に入れたファスナーです。読者の皆様は、ファスナーが開いたり閉じたりする様子をまじまじとご覧になったことがありますか?そもそも、スライダーの部分が覆われているのでよく見えませんよね。そんな時は、3Dプリンターでファスナーを印刷すれば大丈夫です。ファスナーの原理が、手に取るように分かります。実際に手にとって観察できるのです。 

※筆者が某ファスナーメーカーの従業員の方に聞いた話では、ファスナーにはいくつか種類があるそうです。このファスナーで観察できる原理はあくまで一例です。 

 

なお、フィラメントには実に様々な色があり、下の写真のようにカラフルなファスナーを作ることができます。季節や場面に合わせることが可能です。ちょうど年末年始に作っていたので、クリスマスカラーや正月カラー(紅白)のファスナーがあります。 

印刷のコツ 

筆者はあくまで熱溶解積層方式 (FDA) の、しかも特定の製品のことしか知りませんが、3Dプリンターで首尾よく印刷するにはいくつかコツがあるので紹介します。 

ステージの掃除は徹底的に行う 

FDAではステージと呼ばれる平面をベースに樹脂を重ねていきますが、印刷中に樹脂がステージから剥がれてしまうことがあります。これは、ステージ上の汚れ(特に皮脂)が原因です。面倒でも印刷前には毎回、無水エタノールを使用して徹底的に拭き上げることをおすすめします。ノズルも溶けた樹脂が付着しているので、時々熱して拭き上げられればベストです。 

欲張らずに段階を踏んで印刷する 

3Dプリンターで印刷するモデルにはそれぞれの形状なりの特有の難しさがあります。たくさん印刷しようと思っていても1個だけ試しに印刷して様子を見るなど、段階を踏んで印刷することをおすすめします。これは、FDAは印刷に時間がかかるため、不具合を初期段階で発見することに大きなメリットがあるからです。 

印刷のコツ 

実は筆者も3Dプリンターを買ってはみたものの、最初は何を印刷したら楽しいのか全く分からない状態でした。あれこれ印刷しているうちに、気に入ったものが見つかった感じです。何の役に立っているかは分かりませんが、趣味とはそういうものなので問題ありません。読者の方々の刺激になれば幸いです。 

当時2歳の息子が喜んでいたカラーコーン 

(加藤集平 学生・若手フォーラム コンテンツ班) 

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