ASJ Freshニュース 第126号 (2025年2月28日号) 

ASJ Freshニュース

ビギナーズセミナーを100倍楽しむ!超音波こと始め 

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日本音響学会 学生・若手フォーラム 
ASJ Freshニュース 第128 
2025228日 発行 
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卒論,修論,博論,はたまた学会原稿などなど……皆さん大きな山を乗り越えて一息ついている,はたまた次の締切に追われている頃合いかと存じます。 そして,来る3月には春季研究発表会が開催されます。 我々学生・若手フォーラムはビギナーズセミナー「知られざる超音波の世界」と題しまして,超音波分野の第一線でご活躍されている研究者の方々にご講演いただきます。 そこで,今月号の ASJ Fresh News は,そんなビギナーズセミナーを100倍楽しむための超音波こと始め,ということで予習記事をお送りします。  

超音波とは 

超音波というと,人間の可聴域(約20 Hz20 kHz)を超えた周波数の音をイメージしがちです。 しかし,学術的には「物理的な利用が可能で,人が聞くことを目的としていない音」と定義されます。 つまり超音波分野とは,人間による「聞こえ」ではなく,空間や物質中を伝わる物理的な波としての性質に着目した応用を考える研究領域と言えるでしょう。 

「超音波スピーカーを応用したピンスポットオーディオシステム」西浦敬信 先生(立命館大) 

超音波スピーカー 

高い周波数の音波が持つ性質として直進性があります。波長が短い波は打ち消し合いやすいため,回折によって波が広がらずに真っ直ぐ進みやすくなります。超音波スピーカーはこの直進性を利用して特定の場所にピンポイントで音を届けることができます。 

では可聴域を上回り聴こえないはずの超音波がなぜ可聴音を鳴らすことができるのでしょうか?大きな振幅で伝搬する音波は,空気の分子が圧縮される時間と膨張する時間が異なるため波形が歪みます。このとき,元の周波数成分以外にも高調波が生まれます。ここで,周波数の近い 2 つの音波を同じ方向に同時に出すと,それぞれの高調波に加えて和の周波数成分と差の周波数成分が新たに発生します。中でも差の周波数成分は,周波数が近いもの同士の差として得られるため,一般に周波数が低くなり,可聴域に降りてきます(図1)。 

図1

また,高周波音の直進性に加え,非線形効果によって差音は空間を伝播する間に徐々に振幅を増していきます。やがて元の超音波の周波数成分は空気による吸収や拡散によって弱まっていきますが,その間は差音は低周波であるため吸収されにくく遠くまで届きやすいという特徴があります。このように,超音波スピーカーは空気中での非線形性を利用することで,可聴音を再生することが可能なのです。 

ピンスポットオーディオ 

ステージ上をピンポイントで照らすスポットライトのように,超音波スピーカーを利用することで特定の地点や人にのみ音を届けることができます。西浦先生のご研究では極小領域スポットオーディオスポットと呼ばれる特定の空間に音を放射できる技術をご提案されています。ピンスポットオーディオは周囲に音漏れさせず必要な場所だけに音を届けられる利点から,周囲の静音環境を損なうことなく音を聴かせることができるため,美術館での音声ガイドやといった様々な応用の可能性があります。  

「空中超音波を用いた弾性波源走査法における機械学習を用いた欠陥判別支援システム」清水鏡介 先生(愛媛大) 

超音波探傷 

超音波探傷とは,超音波を利用して構造物に欠陥が発生している箇所を特定する技術です。 対象物に超音波による振動を加えると,内部に欠陥等の異常が存在したときに,一部が反射し,一部が透過します。この反射波を受信することで内部の欠陥や異常を検出します(図2)。 対象物を壊す必要がない非破壊での検査であるため,構造物の安全性を維持しながら,効率的に検査を実施できる点が大きな利点です。

図2

また,高周波音の直進性に加え,非線形効果によって差音は空間を伝播する間に徐々に振幅を増していきます。やがて元の超音波の周波数成分は空気による吸収や拡散によって弱まっていきますが,その間は差音は低周波であるため吸収されにくく遠くまで届きやすいという特徴があります。このように,超音波スピーカーは空気中での非線形性を利用することで,可聴音を再生することが可能なのです。

空中超音波 

検査を行う際に,探触子(超音波を発生・受信するための装置)を対象物に接触させて振動を加える接触検査に対して空中,つまり探触子を接触させずに超音波を対象物に照射する方法もあります。接触面に音響インピーダンスを低減するための媒質(カップリング材)を塗布する必要がなく,対象物を汚染することがありません。

弾性波源走査法 

物体に力が加わったときに物体の内部に発生する抵抗力(応力)によって発生する波を弾性波といいます。 超音波によって対象物内には縦波及び横波が発生し,これらは合成波を成します。 伝搬する音波の波長に比べて材料が厚い場合にはレイリー波が発生し,薄い場合にはラム波が発生します。  

弾性波源走査法は弾性波による振動を加える位置を変えながら検査を行う方法です。 空中超音波による加振は非接触であるため,対象の表面が粗い場合でも用いることができ, またフェーズドアレイと呼ばれる複数の振動子を二次元的に並べた装置を用いることで電子的に走査を制御することができるため高速に検査を行うことが出来ます。 

「波動センサによる行動認識」 今村俊樹 様(セコム・IS 研) 

屋内行動認識 

一人でくらす高齢者などを対象に見守りサービスの需要が高まっています。トイレを利用する頻度の変化など普段の行動パターンの変化から病気や事故などの可能性を検知することができれば,最悪の事態を未然に防ぐことが出来ます。その際,屋内での行動を監視するとなった場合,カメラによる動画情報ではプライバシーやデータ量の問題がありますし,GPS による位置情報のみでは具体的にどのような行動をしているのかわかりません。そこで登場するのが超音波を利用した波動センサによる屋内行動認識技術です。 

波動センサ 

波動センサとは,超音波や電波などを利用して環境中の物体や人体の動きを検出するセンサです。 

センサから放出した波が監視対象から反射するまでの時間を利用することで対象との距離と方向を特定することができます(図3)。これにより,対象物の位置や移動,さらには心拍などの微細な振動まで高精度に取得することが可能となります。このとき,超音波を用いることで,家に置かれた電子機器から発生する電波との干渉を防ぎ,機器の誤作動を防ぐことができます。現在では,できるだけ少ない数で広い範囲を高精度に検知できるセンサや画像よりも情報が少ない中で行動を推定するための認識技術の開発が進められています。 

図3

このとき,超音波を用いることで,家に置かれた電子機器から発生する電波との干渉を防ぎ,機器の誤作動を防ぐことができます。現在では,できるだけ少ない数で広い範囲を高精度に検知できるセンサや画像よりも情報が少ない中で行動を推定するための認識技術の開発が進められています。 

おわりに 

これを読まれた方々が,ビギナーズセミナーを 20 dB 増幅して楽しむことができたなら幸いです。 
また,今年はハワイで日米音響学会のジョイントミーティングが開催されることに加え,ASJ が国際会議に参加される学生を対象にリポーターを募集しています。新しく超音波に興味を持った方はご自身の研究を引っ提げて参加されてみてはいかがでしょうか! 

 

参考文献 

渡辺 好章,音響学口座8 超音波,コロナ社 
https://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339013689/ 

鎌倉 友男, 酒井 新一, 野村 英之,パラメトリックアレイとその特徴,日本音響学会誌746号,2018 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/74/6/74_345/_article/-char/ja 

西浦 敬信,高臨場音場再現:パラメトリックスピーカを用いた最新の研究動向,SIP研究会提案,2016 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/essfr/10/1/10_57/_article/-char/ja 

大隅 歩, 空中超音波を利用した高速非接触検査技術の紹介,製造業のための加工・検査等技術の紹介 2022 
https://www.nubic.jp/pdf/news/risona2022/03_okuma.pdf 

清水 鏡介,空中超音波フェーズドアレイを用いた金属板内欠陥の非接触計測に関する研究,日本大学大学院理工学研究科博士論文,2024 
https://nihon-u.repo.nii.ac.jp/records/2002156 

研究テーマ IS研究所の生み出すもの 波動センサによる行動認識技術」 
https://www.secom.co.jp/isl/research/action-recognition-by-wave-sensor/ 

今村 俊樹,福士 和義,池田 賢二.居室内の単一超音波センサによる見守りの実現,日本音響学会秋季研究発表会講演論文集,2023 

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