◆ うまくいかなかったから伝えたい——研究生活のアンチパターン——
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日本音響学会 学生・若手フォーラム
ASJ Freshニュース 第138号
2026年2月28日 発行
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はじめに
3月の学会セミナーでは,登壇者の皆さんからそれぞれの「ベストプラクティス」が紹介される予定です.研究や発表をうまく進めるための工夫を知ることができる,貴重な機会になるはずです.
そこで今月号では,あえてその逆を取り上げてみたいと思います.きれいに成功した話は参考になる一方で,失敗談には,もっと切実で,もっと実践的な学びが詰まっています.今回は,研究活動の中でついやってしまいがちなアンチパターンをフォーラムメンバー3名から紹介します.「わかる……」と感じた方は,きっとあなただけではありません.
うまくいかなかったから伝えたい——研究生活のアンチパターン——
実験コードは読みやすく
学生時代のコーディングスタイルといえばそれはもう酷いものでした.その日その日のキリの良いところで適当にcommitして,動けばいいやの気持ちで書き捨てたスクリプトは数知れず…….そんな状態で1ヶ月以上放置されたコードは動かなくなると思ったほうがよいです.後になってちょっと実験を追加しようと掘り起こしてきたコードがどれを実行したらよいのかすら分からない…….これで困るのは自分だけならよいですが,なにかのきっかけで共同研究を行うことになったり,テーマを後輩が引き継ぐことになったりするかもしれません.書いた本人ですら読めないようなぐちゃぐちゃのコードを渡された相手はたまったものではないですから,変数名やコード内のコメント,README を少しでも整理して分かりやすく書いておきましょう.
コードは「今動けばよい」だけでは,あとで必ず自分に返ってきます.
未来の自分,そしていつか関わるかもしれない共同研究者や後輩のためにも,読みやすさは立派な研究資産です.(小口)
発表を聴きに来てくれる人を過度に怖がる
まず,みんなあなたの味方です.これに気づくのに私はかなりの時間を要しました.
発表を聴きに来ている時点であなたの研究に興味を持ってくれているのです.ときに厳しいコメントや痛いところを突く質問が飛んできたと感じることがあるかもしれません.でも,ほとんどの人は純粋に疑問に思ったこと質問していますし,あなたの研究がより発展するようなアドバイスをしてくれているのです.そう考えると,いつもは怖そうなあの先生も天使のように見えてきませんか?
発表の場は,「評価されるだけの場」ではありません. むしろ,研究を前に進めるためのヒントがもらえる場でもあります. 質問を怖がりすぎず,「研究に関心を持ってくれているからこそ声をかけてくれている」と思えると,発表の見え方はかなり変わります.(小口)
文献調査を怠らない
研究って,つい「とにかく成果を出さなきゃ!」に全振りしがちだと思います.学生の研究は特に,コーディングして,数式を追って,論文や原稿を書いて…で頭がパンパンになりやすい.だから,指導教員に「文献調査しといてね~」と言われても,サボってるわけじゃないのに,あとから振り返ると全然十分じゃなかった,みたいなことが起こるんですよね.
自分も,とある回の音響学会の原稿を書いていたとき,締切の直前(当日か1日前くらい)に「これ,もう先行研究あるじゃん…」と発覚して,ほんとに終わったと思いました.たまたま2種類の手法を試していて回避できましたが,片方だけだったらかなり危なかったです.
文献調査は,時間の許す限りやったほうがいいです.被りを避けるためだけじゃなく,長く研究していると忘れがちな「自分の研究の立ち位置」を見直すのにも効きます. これを読みながらGoogle Scholarで検索しているのではないでしょうか?(村田)
手段の調査にハマりすぎて本来の課題は何も解決しなかった
所謂手段と目的の逆転です.私は過去,自分の研究課題に対応できそうなある手法を見つけて,それを最初は少しトライしてみようと使い始めたことがありました.使っているうちに実際はその手法の前提条件と私の対象にはズレがあることがわかってきたのですが,その派生手法なども調査して試しているうちにそれを使って解析することが目的になってしまっていました.一年弱,色々な手法の実装や修正を繰り返していた気がします.が,そもそもの前提条件が違うのでうまくいかず,結局中途半端な結果だけが残りお蔵入りとなりました.既往研究の調査は大事ですし,引き出しは多いに越したことはないので必ずしも悪いことではないかもしれませんが,今自分が何をしたいかは理解しておかないと困ったことにはなるなという経験です.(泉)
徹夜
できる人は良いと思います.私はダメです.夜遅くまで頑張って書いたコードのデバッグに結局次の日 1 日を費やしたり,書く方なら大丈夫だろうと原稿を書いて朝読んでみたら論理展開めちゃくちゃなものができていて書き直しに同じ時間以上かかったり.今回は大丈夫だろうと自分を過信して何度も失敗してきました.寝るの大事です.もちろん頑張って時間をかけて考えた結果ではあると思いますが,朝起きて 30 分やったら夜上手く行かなかったことが全部解決することはよくあります.と言いつつ今でも稀に夜遅くまでやって後悔しています.これだけ繰り返してもなんか今回は大丈夫と思っちゃうのですよね.(泉)
おわりに
研究生活において,「こうすればうまくいく」という話はもちろん大切です.
ただ,それと同じくらい,「これをやると痛い目を見る」という話にも価値があります.
読みやすくないコード.
必要以上に怖がってしまう発表.
後回しにしてしまう文献調査.
どれも,特別な失敗ではなく,誰にでも起こりうるものです.
だからこそ,誰かの失敗談は,次の誰かの助けになります.
3月のセミナーでベストプラクティスに触れる前に,今月はぜひ,アンチパターンにも目を向けてみてください.「やらないほうがいいこと」を知ることもまた,研究を前に進めるための大事な一歩です.
(村田佳斗,小口純矢,泉悠斗 学生・若手フォーラム コンテンツ班)
