2011年10月末~2012年4月末の半年間,ドイツのドレスデン工科大学 ホフマン教授の音響・音声コミュニケーション研究室に滞在した.滞在中は,基本周波数の推定法に関する研究を行ったが,成果等は今後の学会活動を通して報告していくこととし,今回は,日本と海外での研究生活や文化の違いについて紹介する.
私は,これまで国際会議等で海外に数回行って発表したが,英語の語学力には自信があるわけでもなく,海外での長期滞在は初めての経験であった.したがって,現地で滞在許可の延長はうまく出来るのか?等,様々な不安を抱えながらの渡航であった.私が滞在したドレスデンは,ドイツの東側に位置し,ザクセン王国の首都であった歴史を持ち,2004年~2009年までの約5年間,エルベ川と中心部の街並みが綺麗であるため世界遺産に登録されていた,日本人にも人気の観光地である.特に,12月には約1か月間クリスマスマーケットが開催され多くの観光客が訪れる,ドレスデンのクリスマスマーケットはドイツで最も歴史が古く約580年の歴史がある.この時期には,グリューワインと呼ばれるホットワインの出店が多く出ているため,グリューワインを飲んで体を温めるのがドイツの冬の風物詩である.現地では,市街地は簡単な英語が通じることが多く,携帯電話の契約等に困ることはなかったが,マクドナルドでは英語で注文しても,店員さんはドイツ語で返してくるなんてことは日常茶飯事であったが,意思は伝わるので問題はなかった.もちろん,簡単な注文は,ドイツ語でしていたが,質問をドイツ語でされると理解できなかったので,その時は,英語で「Sorry?」と言って,適当に切り抜けたものである.食べ物は,市内にアジア食材のお店が2店舗と韓国食材のお店が1店舗あったので,しょうゆやみりん,お酢,日本酒,梅酒,お味噌汁,だしの素,のり,豆腐,カレー粉,お茶漬けなどが売っていたので,自炊を中心に暮らしていた.物価は,消費税が高い割には,日本より安く,にんじん1 kgで1ユーロなんて激安のものが普段からあった.お米は,炊飯器を買わなかったので,鍋で炊いていたが,慣れると意外に簡単であった.
ドレスデン工科大学は,ドレスデン中央駅からトラムやバスで2駅と市街地から近く,非常に立地の良い場所にある.ドレスデン工科大学を代表する研究者として,バルクハウゼン効果を発見したハインリッヒ・バルクハウゼン教授が挙げられる.ホフマン教授の研究室は,研究員と博士課程の研究員を中心に約20人程度の研究室で,室内音響やロバスト音声認識,音声合成を得意とする研究室である.ワーキングスペースは,6畳程度の部屋をマケドニア出身の元准教授の研究員の方と私の2で利用していたため,とても広かった.研究室のメンバーは,朝8時位に出勤し,16~18時には帰宅していた.なぜ「出勤」という言葉を使ったかというと,博士後期課程の研究員の多くは,約6年間という契約制で学費不要かつお給料をもらってプロジェクト研究を行っているためである.したがって,日本の後期課程の学生とは違い,周りには結婚して子供がいるような後期課程の研究員も多くおり,日本の博士課程に比べると自由に研究をすることは難しいが,生活は安定しているように感じた.しかし,これも教授の持っている研究費に影響されるので,一概には安定しているとは言えないそうだ.このように,博士後期課程の研究員が優遇されている要因として,日本とドイツでは,博士号を持っている人に対する国民の尊敬の度合いが違うのも一因だと思う.ドイツ国内では,警察や病院に行った時に「私は博士だ」というと対応が良くなるらしく,飛行機や電車を予約する際にも,Mr.やMs.以外の呼称に必ずDr. やProf.の呼称の選択欄が用意されている.ドイツに行ったことで,博士号という学位の重みをこれまで以上に実感すると共に,博士号を取得したいとこれまで以上に思った.
話が脱線してしまったので,生活に話を戻す.研究室のミーティングは毎週水曜日の午前中にあったが,誰か1人が研究発表や進捗報告を行うものであった.また,誰かが誕生日の時には,教授が鉢植えの花をプレゼントし,誕生日の人がお菓子を用意して午前中の30分程度,スパークリングワインやコーヒーを飲みながら誕生日会をするというのが,ドイツ式の恒例行事であった.週末には,マケドニアやバスク,エチオピアから単身で来ている研究員と一緒に大学の敷地内にあるバーに行ってビールを飲んで交流を深めた.ドイツ人の多くは,家族があるので研究室のオフィシャルなイベント以外では,一緒に飲む機会は少なかった.大学の学食と同じ建物にあるバーでよく飲んだ.ビールは,日本みたいに冷えていることはなく,ぬるいビールであるが,約2ユーロ(約200円)で500mlのジョッキが非常に安かった.そして,ビールの本場だけあって,どんなビールを飲んでもおいしいかった.私は,少し甘い感じのするヴァイツェンビールが非常に気に入った.昼食は,お昼になると呼びに来てくれて,毎日研究室のメンバーと学食に食べに行った.学食のメニューには,ドイツ料理以外に,パスタやピザ,寿司があり,飲み物のコーナーにはビールサーバーもあり,日本と違ってオープンな感じであった.昼食の話題は,研究の話題であったり,今流行っているゲームであったりと,この辺りは日本と一緒である.食後は,冬の寒外の下でコーヒーを飲みながら,再び研究のディスカッションをするような毎日であった.
今回の留学を通じ,これまで持ち得ていなかった研究視点や課題を得ると共に,その解決に向けた考えを得ることができた.ここでの留学は,私の博士研究にも大きな刺激と影響を与えてくれた.また, 北陸先端大は留学生も多くグローバルな研究環境であると思うが,TUDの独自の研究環境での研究活動を通じ,これまで以上にグローバルな環境で研究を行うことに自信を持つことができた.今回の留学は,今後,海外での研究滞在や海外の研究者との交流・共同研究を行う上で,そのような機会に積極的に参加しようという意欲につながり,私自身の大きなアドバンテージとなった.ドレスデンでは,2015年に音声研究を中心とした国際会議のInterspeechが開催されるので,今後も継続的に研究を行い,2015年には必ずドレスデンを再訪したいと思う.
森田 翔太(北陸先端大 D3)
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