ASJ Freshニュース 第83号(2021年5月29日号)

◆ コロナ禍で博士号を取得された方へのインタビュー(第2弾)

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日本音響学会 学生・若手フォーラム
ASJ Freshニュース 第83号
2021年5月29日 発行
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はじめに

みなさん,こんにちは!

前回のASJ Freshニュースに引き続き,今博士号を目指している方々にコロナ禍での博士取得に関する情報を紹介することを目的として,今年博士号を取得された2名の方にインタビューをさせていただきました。

前回号の記事へは以下のリンクからご覧ください。

♪*♪*♪━━━━━━━━━━━━━━━━━コロナ禍で博士取得された方へのインタビュー(第2弾)━━━━━━━━━━━━━━━━━♪*♪*♪

インタビュー1: 株式会社 RevComm 兼 日本音響学会 学生・若手フォーラム 幹事会員加藤集平HP: https://ja.shuheikato.info

・博論修正時の様子
私の場合はコロナ前の2019年の11月に中間審査を通過していたのですが、本審査の要件をすぐに満たすことができず、本審査が1年延期されていました。博士論文の修正を本格的に始めたのは昨年の10月頃で、毎週1チャプターを修正するというペースで進めました。一旦形になっていたものを修正するペースとしてはやや遅いように思われるかもしれません。しかし、実際にはフルタイムの仕事をしながら論文を修正するのはハードな作業で、夜間や休日の時間を使いながら必死で修正をしていました。

・博論提出の方法
本審査・最終版ともオンラインでの提出でした。

・最終審査の様子(会場?リモート?)
最終審査はZoomで行われました。前述の通り中間審査はコロナ前で、もちろん会場で行われていました。そのため、最終審査で初めてリモート審査を体験することになりました。リモートでの発表経験はありましたが、審査となると重みは別格で、心を落ち着けるのに苦労しました。一方で、リモート開催だからか、聴講者の数は予想以上に多かったです。たくさんの方々に聴講いただけたのは、ありがたいことだと思っています。

・審査直後の感想
審査の結果はすぐに知ることができましたが、博士号授与の決定までは手続き上しばらく時間が空きます。正式に通知をいただいたときには、肩の荷が下りるとともに、博士号の名を汚すことのないよう身の引き締まる思いでした。

・就職活動の様子
博士後期課程に入った際には前職でフルタイムの仕事をしていたのですが、体調を崩して途中で退職していました。その後は療養に努めながら3年ほど専業で学生をしていましたが、ちょうど中間審査を終えてすぐの2019年11月末に現職で働き始めました。このタイミングで働き始めたのは、昨年3月に卒業する可能性があったためです。結果として、本審査までの1年余りは仕事と両立しながら研究を進めることになりました。

フルタイムの仕事をしながら博士号取得を目指すのは簡単なことではなく、時には仕事を優先して研究がなかなか進まないこともありました。しかし、勤務先は(コロナ前から一貫して)フルフレックス・フルリモートでの勤務が可能ということもあり、何とか両立することができました。もしこのような柔軟な勤務制度に恵まれなければ、両立は難しかったでしょう。コロナ禍でリモート勤務が増えていますが、仕事との両立を目指す人には助けになるかもしれません。

・博士後期課程全体の感想
フルタイムの仕事をしつつ博士後期課程に入ったかと思えば退職し、再度フルタイムの仕事をしながら博士号取得に至るといった具合に、仕事との両立という観点から見ると、私の博士後期課程の道のりは決して平坦なものではありませんでした。それでも博士号取得に至ることができたのは、指導教員・研究室の仲間・職員の方々はもちろんのこと、家族や職場の仲間の多大なる支援があったからこそだと思っています。

今後は直接ご支援いただいた方々はもちろん、社会全体に対しても恩返しができるように努めていく所存です。


インタビュー2: 北陸先端科学技術大学院大学 研究員 兼 日本音響学会 学生・若手フォーラム 幹事会員鳥谷輝樹HP: http://www.jaist.ac.jp/~t-toya/ 

・博論作成時の様子
学位取得までの流れの中で,D論執筆の時間が一番苦労しました.私は最終的に今年3月に修了しましたが,当初は前年12月での修了を目指していました.執筆に先立って,まずは章構成と骨子を4月上旬に仮確定させました.大まかな章構成は,国際会議やジャーナルの成果に対応する部分を本論とし,序論と結論をつけるという形で整理しました.

D論執筆を目前にして,主要成果となる投稿中のジャーナル1編が査読の結果 Major Revision となっており,追加測定と原稿修正の必要に迫られていました.当時,コロナ感染症対策のためにヒトを対象とした測定を従来通り進めることができず,安全に配慮した対策やスケジュール調整が非常に難航しました.さまざまな制約の中で何とか追加データを揃えることができ,8月末に当該ジャーナルがアクセプトされました.

改めてD論の章構成と骨子を再考し,本格的にD論執筆を再開できたのは10月上旬でした.執筆時に最も大変だったのはイントロのストーリー展開の整理でした.前月号で齋藤佑樹さんも書かれていたように,博士研究の哲学的な部分をどう書き表すかという点については私も締切ギリギリまで苦悩しました.

・博論提出の方法
予備審査(12月)および本審査(2月)の前(だいたい2週間前)に,D論等の書類を提出する必要がありました.主査・学内審査員の先生と大学教務係へはD論を含むすべての書類をオンラインで提出しました.学外審査員の先生に対しては原則,D論を印刷して郵送する必要がありました.予備審査前の提出のときは自分で郵送の手続を行いましたが,本審査前の提出のときは大学教務係に郵送手続をお願いしました.

・中間審査の様子(会場?リモート?)
予備審査は,Webex 上でリモートで開催されました.ただし,私と主査の先生のみ学内の指定された審査会場(同一の部屋)に入室した上で,各々のPCから参加する必要がありました.予備審査は Closed での開催でした.リモートだったということもあってか,独特の張り詰めた緊張感があり,なんとか審査を終えた後はホッとした気持ちとともにドッと疲労感が襲ってきました笑.

・博論修正時の様子
大規模な修正は求められませんでしたが,審査員からのテクニカルな質問に対する回答をクリアにして原稿に反映するために,軽微な修正を必要としました.図のリメイクや誤植の訂正などは根気のいる作業でしたが,予備審査を乗り越えられた安堵感もあり焦ることなく落ち着いて進めることができました.ただ,本審査に向けた発表練習を始めるとなかなか自分自身で納得のいくものにならず,最後の1週間は不安と焦りから夜もよく眠れない日々が続きました.

・最終審査の様子(会場?リモート?)
私の所属したJAISTでは,本審査は公聴会(Open)と最終試験(Closed)の二本立てになっています.私の本審査はすべて Webex 上でリモートで開催されました.予備審査のときと同様に,私と主査の先生のみ審査会場に同席した状態で行われました.

公聴会では,発表を聴いてくれている方々に背中を押してもらえている感じがして,緊張を感じながらも自信を持って発表できたような気がします.今後の展望を含めた広範囲な質問を頂き,実り多い公聴会でした.Closed の最終試験では,私のPCが突如不調となるトラブルがあり,復活するまでの数分間だけ主査の先生のPC上で対応しました(大変焦りました…… 機転を利かせて下さった主査の先生に感謝!).審査員の先生からは,研究のやや痛いところを突く鋭い質問も頂きましたが,何とか回答をまとめることができました.

予備審査も本審査も,質疑応答が終わると私のみ退出し,審査員の間で合否が決定されるまでの10分ほどの間,廊下に立って待つことになります.この孤独の時間のドキドキ感は半端ないです!笑

主査の先生に呼ばれ会場に再入室し,合格という言葉を頂いたときはとにかく安堵の気持ちでいっぱいでした.しかし,最後の1週間に溜めた疲れのせいか夜にギックリ腰を発症し,痛い締めくくりとなりました。

・審査直後の感想
学位取得は決定したものの,この時点ではまだ次の所属先が決定していなかったため将来への不安があり,博士号取得を素直に喜べる心の余裕はありませんでした.学位記授与式の日にアカデミックガウンを着て,学位記を手にして指導教員の先生や後輩たちにお祝いの言葉を頂いたとき,お世話になった方への感謝の気持ちに溢れました.このときになって初めて,喜びと達成感が湧いてきた気がします.

・就職活動の様子
D入学時には,D3になる前には就職についてしっかり考えなければ…… なんて思っていたのですが,結局本審査直後まではまったく先行きが不透明でした。在学中に研究と並行して就職活動を進められなかった自分の能力不足ですね...

今思えば,在学中の研究活動(学会発表など)を通じてもっと自分の名前を売っていくべきだったと思います.都市圏から離れた環境に身を置いている以上,自ら主体的に動いて学外のコミュニティとの関わりを深めようという意識をもっと強く持っていれば良かったなぁ...と,少し悔いがあります.

そんな中,所属研究室でD在学中に携わっていたプロジェクトを,当面の間引き続き推進して欲しいという話を指導教員から頂き,現職に着任するに至りました.

・博士後期課程全体の感想
学部を卒業するタイミングでは,明確な将来のビジョンは描けていませんでした.なんとなく,ガラッと環境を変えてまずは自分の知的好奇心に向き合ってみるか,ということで,首都圏から離れたJAISTへの進学を決意しました.本気で博士後期課程への進学を意識したのは,JAISTの修士に入学した後のことでした.自分は(良くも悪くも)後先考えず好奇心と熱意だけを引っ提げて突っ走ってきましたが,この勢いがあったからこそここまで来れたのだと思います.

一方で,博士後期課程では熱意だけでは通用しない難しさも実感しました.今思うことは,入学時(理想としては入学前)に博士研究全体のビジョンを描けていなければ,標準修了年限での博士号取得は難しいだろう」ということです.私は在学中に一度,研究の方針を大きく見直し軌道修正する必要性に迫られました.

コロナ下でのスケジュール変更という不運も重なりましたが,結果として標準修了年限を1年以上超過することとなりました.博士研究の一貫したビジョンが最初にしっかりとしていれば,明確な目標の下で研究に着手でき,大きな軌道修正をすることにはならなかったでしょう.博士論文の章立ては,実は博士後期課程の研究に着手する時点で既にイメージできていないといけなかったのだ,という悔恨の念も胸にこみ上げて参ります.

とはいえ,自分の気の向くままに色々と試行錯誤を繰り返し,楽しく実りある時間を過ごすことができたことは最高に幸せでした.ここまで支えて下さったすべての方に感謝するとともに,「博士号取得はゴールではなく,これからが本当の研究人生のスタートなのだ」という気持ちを忘れずに日々頑張っていこうと思います.

今,博士号を目指している方にメッセージを送るならば,まず上にも書いた通り「できるだけ早く博士論文の章立てをイメージしましょう」ということ,もう一つは「博士号取得が人生のすべてではない」ということです.博士号取得の道のりは誰しも険しいもので,歩み続けられるか不安に思うこともあると思います.

そんなとき,「何としてもこの道を突き進むんだ」という考えはかえって焦りや不安に繋がってしまうかもしれません.別な道,違う世界にはどういったものがあるのかも考えてみて,自分の選択肢を広く持ってみることで,目の前のことに腰を据えて取り組めるような気がします.

私のエピソードが誰かの推進の一助になりましたら幸いです.

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