ASJ Freshニュース 第95号 (2022年6月28日)

ASJ Freshニュース

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日本音響学会 学生・若手フォーラム
ASJ Freshニュース 第95号
2022年6月28日 発行
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◆ ICASSP 2022 参加報告
◆ AES Europe Spring 参加報告
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 街中がだんだんとコロナ禍以前の活気を取り戻しつつある今日この頃ですが,アカデミアも例外ではありません.音分野の国際会議である International Conference on Acoustics, Speech, and Signal Processing 2022(ICASSP 2022) と 152th AES International Convention Audio Engineering Society(AES Europe 2022) は久しぶりの現地開催となりました.今月号では実際に参加された方々からのレポートをお届けします.

 

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ICASSP 2022 参加報告
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1.はじめに

 ICASSP は信号処理分野のトップカンファレンスです.過去2年に渡るオンライン開催を経て,今年は久しぶりの現地開催となり,メイン会場はシンガポールのマリーナベイ・サンズで執り行われました.また,事前にGather.Town を用いたオンライン会議が行われ,中国ではサテライト会場が設置されるなど,いまだ渡航規制が厳しい国の方々にも配慮された形での開催となりました.

ポータルサイト: https://2022.ieeeicassp.org/
講演論文集: https://ieeexplore.ieee.org/xpl/conhome/9745891/proceeding

2.参加者の感想

(ア)はじめに

 立命館大学大学院 博士2年の岡本です.今回は,5月に開催されたICASSP (International Conference on Acoustics, Speech and Signal Processing) 2022の参加報告をします.会議自体は5月7日~13日の間にオンライン開催,5月22日~27日にシンガポールで現地開催とハイブリッド形式での開催でした.私はオンラインだけでなく現地でも参加することができたため,今回は現地開催での様子についてお伝えします.

(イ)現地開催の様子

 会場は,世界最大の屋上プールがあるマリーナベイサンズにて実施されました.発表は,席数100名ほどの6つの部屋にてそれぞれ一般発表とTutorial,参加者全員近くが入れる席数のホールにてOpening ceremonyやIndustry Keynoteなどが行われていました.一般発表以外のセッションはLive配信も行われており,現地に参加できなかった方でも聴講できるように準備が整えられていました.一般発表は,現地での発表希望者全員が口頭発表という形式であり,同時に6つほどの一般セッションがパラレルに実施されていました.セッションによっては満席の会場もあり,活発な議論が行われている発表も見受けられました.
 発表以外でも,朝食や昼食が提供されたり,Welcome reception,Banquetが開催されたりと,完全に元通りとはまだなっていませんが,少しずつコロナ前のような学会の開催形態に近づいているように感じました.昼食で相席になった研究者と会話したりと,現地開催ならではの体験等もあり,個人的にはやっぱり現地開催の学会は良いなと感じました.

(ウ)自身の発表内容

 私は,複数の混ざり合った環境音の中から特定の音のみを取り出す環境音抽出に関する研究を発表しました.従来,「笛の音」のような音の種類(以下,音響イベント)を指定して,混合音から指定した音響イベントに対応する環境音のみを抽出する手法が提案されていました.しかしながら,「笛の音」という音響イベントの音にも様々な音高が存在するため,従来手法では特定の音高の音だけを抽出することはできません.提案法では,音響イベントの代わりに擬音語テキスト(「カンカン」のような音の特徴を模倣した言語情報)を使用して抽出したい音の特徴を表現することで,混合音中から特定のみの抽出を実現しました.
 私自身,現地での国際学会参加は約3年ぶりかつ,初の英語での口頭発表だったため,とても緊張しました.質疑でうまく対応できなかったりと思い通りの発表とはなりませんでしたが,ICASSPという大きな場で口頭発表を経験できたことは非常に貴重な機会になったと思います.今回の貴重な経験を次回以降の国際学会発表に繋げていきたいです.

(エ)最後に

 来年のICASSP2023はギリシャのロードス島で行われる予定です.来年こそは完全に対面で開催されることを願いながら,筆者は次のICASSPのネタでも考えたいと思います.

(立命館大学大学院・博士課程学生 岡本悠希)

 

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AES Europe 2022 参加報告
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1.はじめに 

AES Convention は年に2回開催されるプロオーディオやエンジニアリングを中心とした国際会議です.第152回目のAES Europe 2022では,ICASSP2022同様,オランダのハーグ王立音楽院での現地開催に加えて,オンライン会議も行われる形での開催でした.
AES Vienna 2022 Portal Site: https://aeseurope.com/
AES Vienna 2022 Proceedings: https://www.aes.org/e-lib/online/search.cfm?type=preprint&title=&convnum=152

2.参加者の感想

(ア) はじめに

 東京電機大学博士2年の津國と申します.2022年5月に開催されたAES Europe Spring 2022(AES 152nd Convention)に参加し,2件の発表を行ったので,そのときの様子や感想をお伝えしたいと思います.今回のAES Conventionはオランダのハーグという都市での現地開催(5/7-8)とオンライン開催(5/16-19)の両方がありましたが,私は残念ながら現地には行けなかったので,オンラインの方に参加しました.

(イ) オンライン会議の様子

 今回のAESオンライン会議では,Zoom(Webinar)とDiscordを使用して発表を行いました.オンライン会議でZoomを使用する学会は多いかと思いますが,Discordを使用したのは今回が初めてだったので,その使い方が面白く,感心しました.
 発表は基本的にWebinar形式のZoomでリアルタイムに行われるのですが,時間内に収まりきらなかった質問などは,Discordに各発表者のチャンネルがあるのでそこで引き続き議論が行われるといった仕組みでした.また,時差などの問題でリアルタイムに参加することが難しい場合は,事前に録画したプレゼンテーション動画を提出しておけば運営側が再生し,質疑はDiscordを使用するのでオンライン発表を行ううえでこれといって不便は感じませんでした.発表後も2ヶ月ほどはオンデマンドで発表動画を見られるので,見逃した発表を後から確認できるのは,オンラインの良いところですね.
 特に私がDiscordを使っていて面白いなと感じたのは,自分のペットの紹介や雑談をするチャンネルがあったことです.参加者の方たちが飼っている犬や猫,うさぎの写真を互いに見せあってスタンプ等でリアクションしている様子には癒やされました.他にもSwitchゲームの「あつまれ どうぶつの森」の写真などをアップしており,研究者=硬い雰囲気がある,という偏見をとっぱらい親近感を抱かせてくれました.(ゲームの人気さも垣間見えました)

(ウ) 発表について 

 今回は,音源の指向性を考慮した室内インパルス応答の推定に関する研究と,音場再現時に頭部反射が再現精度に及ぼす影響の調査,の2件を発表しました.
私は事前録画の提出を選択したためプレゼン動画を同時並行で2本作るのはさすがに疲れました.締め切り間近は心のなかで,2件発表なんてもう絶対に二度とやらない,と呟きながら作っていました.
 AESはAudio Engineering Societyという名前の通り,オーディオや音場再現に関する発表が多いので,この分野に興味があるひとは参加してみると良いかもしれません.今回私が参加したのはAES Conventionですが,Conventionより規模が小さめで研究トピックをもう少し限定したConferenceなども開催されているので,初めての場合はConferenceの様子を見てみるのも良いと思います.

(エ)最後に

 今回は初めてDiscordも併用した学会発表に参加してみて,Zoom等だけのオンライン会議より少しだけ賑やかな雰囲気を感じることができました.一方で,便利という観点ではオンライン参加は素晴らしいですが,つい“自分の発表が終われば学会も終わり”という側面が強くなってしまいがちなので,研究発表や開催地の文化に触れることも含めて多くの経験と学びが得られるのはやはり現地参加であるとも感じました.最近は現地開催に踏み切っている学会も少しずつ増え始め,移動制限も緩和されつつあるので,現地参加は今後に期待したいと思います.

(東京電機大学大学院・博士課程学生 津國和泉)

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おわりに
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徐々に現地開催へ踏み切る国際会議が増えているようです.対面でのディスカッションならではの体験だけでなく、憧れのあの国へ行けるとなればモチベーションも上がるというものです.
 現地開催といえば…なんと今年9月の日本音響学会秋季研究発表会は北海道科学大学で開催予定です!今回も学生・若手フォーラムはイベントを企画しておりますのでお楽しみに!

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